ゾンビ映画としてはかなり異色作。
ワクチンによってゾンビアポカリプスの危機を脱した社会という設定。
しかし、ゾンビウイルスは完治できず、感染者はワクチンによってウイルスを抑制し続ける必要があった。
感染者たちは“リターンド”と呼ばれ、差別の対象となることもあり、治療に反対する過激派も存在していた。
そんな中、ワクチンが不足し始めたことで社会はパニックに。
“時限爆弾”と表現されるように、ワクチンがなくなれば感染者は危険な存在になる。
一部の人々は暴徒化し、感染者たちを虐殺し始める。
政府も保護を名目に感染者たちを隔離し始め、感染者たちは先の見えない不安に襲われていた。
ケイト(エミリー・ハンプシャー)は、病院でウイルスに感染した患者を治療する医者。
恋人で感染者のアレックス(クリス・ホールデン=リード)と共に、政府、暴徒から逃れながら、ワクチンの確保に奔走する、、、
というストーリー。
主だったドラマは、ゾンビ化への不安とワクチンの奪い合いで、ゾンビから逃げ回ったりはない。
ワクチンのウイルス抑制時間は短く、毎日注射をしなければ完全にゾンビ化して手遅れになってしまう。
そんな緊迫した状況なので、ワクチンを入手しようととんでもない行動を起こす者たちが現れる。彼らは自分達が助かるためには他人の犠牲を厭わない。
ひどいなーと思いつつ、やってることは主人公たちも同じだった。
ケイトは職業上、ワクチンが不足していることを以前から知っており、病院からワクチンを不正に入手しては大量に隠し持っていた。
直接的ではないが、この行為によってワクチンが行き渡らずに死んだ者もいるだろう。
感染者の治療が専門の医師とは思えない自分勝手な行いだ。
一見お人好しそうなアレックスも、捜査を逃れるため刑事を撃ち殺そうとする。
他人を殺してでも自分は生きたいという、これも自己中心的な考えだ。
その他の登場人物たちも大体そういう考えをしている。
他人を食って生きる。
こう表現すると、彼らの行動はゾンビと何も変わらないことに気付く。
なるほどよく出来たストーリーだと思う。
しかし、この映画は何が言いたいのか分からなかった。
油断大敵?信頼?盲目的な愛?
メッセージ的なものは感じられなかった。
ところでこの映画、ゾンビである必然性はない。
完治が難しく死に至るウイルスなら何でもいい。
でもやっぱり、ただの感染ものよりゾンビが出た方が俄然興味が湧く。
画面も華やか(?)になるし。
ただし、ゾンビの描写は恐いが登場はちょっとだけ。
ゾンビがたくさん襲ってくるような場面はない。
こういうゾンビ映画もあるんだっていう意味では貴重な映画。
ホラーとしては楽しめないが、極限の状況での人間ドラマが面白い。
ゾンビ・リミット(原題:The Returned/2013年/スペイン・カナダ)