これは素晴らしい映画。
劇中の言葉を借りるなら「素敵」な映画。
まず脚本が良い。そして世界観が良い。ついでに江戸言葉が面白い。
縁切り寺に駆け込みをする止むに止まれぬ事情を抱えた女達の物語。
縁切り寺に来る女達の目的はただひとつ、夫との離縁。
寺に入り尼として2年過ごせば、寺が仲介をして夫との離縁を成立させるというシステムだ。
江戸時代では女性に自由に離婚する権利は与えられておらず、夫と別れたいと願っても叶わない。
一生耐えるか自害するかだ。
そんな時代に駆込みをする女達は、ただならぬ覚悟でやってくる。
映画は、「お吟」と「じょご」の話をメインとしつつ、
それ以外の寺で生活する他の女達のエピソードもあり、それぞれの人生ドラマを垣間見ることができる。
お吟(満島ひかり)は、劇中の言葉通り「艶(あで)」という言葉がぴったりの人物。
面倒見が良くサバサバとしていて、肝の座った姉御肌という女性。
しかし、この映画の満島ひかりの顔が正直恐い。
引き眉、お歯黒、白粉という当時の女性そのままの化粧をしているため、
ホラー映画かコントのメイクのようだ。
しかし、その姿も物語が進むと儚い命と相まって美しく見えてくる。
このエピソードは、堤真一演じる夫の「粋」さもあり感動必至。
じょご(戸田恵梨香)は、素朴で真面目。
働かない夫の代わりに、嫁ぎ先の製鉄屋を女だてらに切り盛りしている。
夫は酒と女に溺れ、仕事で火傷したじょこの容姿をなじっては悪態をつく。
思い詰めたじょごは、駆け込みか自殺か、自身の運命を道端の地蔵に託す。
こちらはまっすぐな性格で「凛」という言葉が似合う。
役柄のせいか、この映画の戸田恵梨香は本当に美しかった。
その他にも、内山理名演じる敵討ちを望む女侍、女郎の姉妹のエピソードなど、どれもじんわり感動させられる。
そんな女達の友情にも心を打たれる。
この映画最大の功労者は、なんといっても主人公の信次郎を演じる大泉洋だろう。
信次郎は、医者見習いで新人の戯作者(げさくしゃ:現代でいう小説家)でもある。
少し間が抜けているが、頭の回転が早く口がずば抜けて達者、医療の知識も豊富だが、自身の進む道を決めきれずにフラフラしている。
現代的に言うなら、就職浪人といった感じか。
この役は、大泉洋の口達者が活きていた。
大泉洋の特技とも言える、聞いているものを圧倒する捲し立てが実に気持ちいい。
幼少時から落語に親しんできたというだけあって、セリフはまるで古典落語を聞いているかのようだった。
天性のコメディセンスで、コメディ部分を一手に引き受けてしまえる芸の深さも感じた。
控え目な者同士のじょごとの恋愛も微笑ましく、物語に華を添えている。
寺を治める尼を演じた陽月華は、元宝塚トップ女優だけあって映画初出演とは思えない風格を感じさせる。
寺との仲介役の樹木希林はいつも通りで、どんな役をやってもやっぱり樹木希林だった。
この映画は江戸をリアルに感じさせてくれる。
普通に江戸言葉で会話するため、理解できないことがある。
しかしそれらは、後で調べるととても面白い発見になった。
言葉には当時の文化がよく反映されている。
映画が現代人に合わせない、こちらが合わせていく。
このスタンスも良いと思えた。
この言葉の違いから、序盤からぐっと映画の世界である江戸時代に引き込まれる感じがした。
この映画は本当に言葉を大事にする。
ぴったり当てはまる言葉を選んで表現する。
これは、日本語に造詣が深い原案の井上ひさしの影響だと思われる。
日本らしい美しい四季折々の風景が楽しめるのもこの映画の大きな魅力。
江戸時代に強く生きた女達の人生を、江戸の文化とともに垣間見る。
そんな「素敵」な時代劇。
駆込み女と駆出し男(2015年/日本)