アドニス(マイケル・B・ジョーダン)は、ボクシングの元ヘビー級チャンピオン、アポロ・クリードの息子。
しかし、愛人の子である彼は、母を亡くしてから施設で生活していた。
アポロの妻メアリー・アンに引き取られてからは、不自由なく暮らし、仕事も順調だった。
しかし、内に秘めたボクシングへの憧れは抑えられず、かつての父の親友でありライバルであるロッキー・バルボア(シルベスター・スタローン)に、自分のトレーナーになって欲しいと頼み込む。
アポロとロッキー、二人の伝説のチャンプのハイブリッドが誕生する。
胸熱!これがロッキーだ!という感じがする。
シリーズのファンが見たかったのはまさにこれだ。
ハングリー精神。ネバーギブアップ。パートナー。世代を越えた友情。
この作品には初代ロッキーの魂が完璧に宿っている。
シリーズおなじみの猛烈にトレーニングをするシーン。
見てるこっちが触発されて、体が疼き出すような感覚はまさにロッキーシリーズの象徴だと思う。
しかし、かつてからのファンには、シルベスター・スタローンの老いがやはり気になる。
映画のロッキー自身も老いを強く意識しており、俳優の老いすらも物語の一部にするなんて完璧としか言いようがない。
シリーズと共に年を重ねるロッキーは、もうリアルの存在としか思えない。
こんな映画は他にない。
エイドリアンとポーリーの墓の前に腰掛け、新聞を読みながらロッキーが二人に話しかける。
おそらく日常になっているだろうその習慣は、一人残された彼の孤独を表した印象的な場面だった。
年をとったせいか、発言も昔と比べて大きく違う。
「もし願いが叶うなら長生きするより、1日でいい女房と過ごしたい」
妻への愛情の深さが表れた名台詞だ。
最近のロッキーは良いことを言い過ぎる。ロッキーの台詞で涙が出るなんて思いもしなかった。
アドニスは行動力で夢を掴んだ。
安定した生活を捨て、厳しい環境で経験を積み、師事してくれる者が近くにいなければ遠くまで行く。
うまくいく保証はどこにもない。計算ではなく衝動がそうさせている。そして絶対にあきらめない。
チャンピオンになるにふさわしい、ハングリーな挑戦者だと誰もが思うに違いない。
現実でも夢を掴むのはこういう奴なんだろうなーと思わされる。
映画はフィクションだが、登場人物達の行動はリアリティがあって学ぶことが多い。
試合は、他のシリーズに引けを取らないほどの激闘。
相手のチャンプは現役プロボクサーのアンソニー・ベリューが演じているので、さすがに動きに迫力がある。
しかし、今回の闘いはボクシングだけじゃない。
ロッキーは治療の困難な病に侵されている。
闘って活路を開くこと、ロッキーがシリーズ最初で教えてくれたことだ。
誰かの必要となり、誰かを必要とすること。困難なことも支え合えば成し遂げられる。
そのことが、この映画からはヒシヒシと伝わってくる。
惰性で続いていた感じもあったロッキーシリーズだったが、この作品はそんな過去作を否定することなく、すべてを包括した上でシリーズの歴史に深みをもたらした。
その功績は、シリーズにとってとても大きいといえる。
ラストはファンにとってはおなじみのあの場所で終わる。文句なしだ!
クリード チャンプを継ぐ男(原題:Creed/2015年/アメリカ)