低予算でも比較的作り易いのか、低予算を主張する映画にはホラーが多い。
そんな中でも、この映画の制作費は45ポンド(約6000円)と飛び抜けて安い。
作品の出来を正当に評価されてないような気がするので、
個人的には低予算を大々的に主張する映画はあまり好きじゃない。
しかし、この映画は低予算とかは関係なかった。
シンプルなアイディアとストーリーで、映画として満足に楽しめる作品だった。
映画はゾンビになった青年を主人公として、彼の生活(死活?)を追う形で展開する。
一人(一匹?)のゾンビをたんたんと追い続けるという、なんだか不思議な映画となっている。
ゾンビを主人公とした映画は、古くは『ゾンビコップ(1988年)』、
最近では『ウォーム・ボディーズ(2013年)』、
ショートムービーの『CARGO(2013年)』などがあり、新しい題材というわけではない。
しかし、それらの作品との大きな違いは、この映画の主人公はその他大勢のゾンビと同じで特別な事はなにもない。
スーパーマリオのクリボーや、ドラクエのスライムを主人公にしたようなものだ。
ゾンビの一日には、ゾンビなりにいろいろなことが起こり、
人を襲って食べたり、逆に人に襲われたりする。
ゾンビといえども元は人間なので、彼にも家族がいる。
家族ドラマもあるのだが、残念ながらゾンビである主人公に自覚はない。
ただし、全くの無感情というわけではなく、生きていた頃の記憶がわずかに残っているのか、なんとなく気を取られるものがあるらしい。
分かってないようだが微かに反応があるようにも見える、そのゾンビの描写がとても上手く、思わず感動してしまう。
主人公がゾンビになった経緯が、ラストで明らかになる展開は良かった。
劇中で主人公の家族は出てくるものの、ゾンビである彼自身のことはずっと分からないままだった。
なので、特別に感情移入をするわけもなく、あるゾンビAのストーリーとしてなんとなく鑑賞していたわけだが、最後に彼自身の素性が分かると感情が一気に入った。
そして、それまでのドラマをもう一度、思い出させられた。
その時点ではもう、あるゾンビAのストーリーではなくなっていた。
この映画の制作者のマーク・プライス監督は、SNSでボランティアを募って映画を制作したという。
制作過程から作品内容まで、彼のアイディアやセンスを存分に発揮した作品だと思う。
画質や音声、照明といった機材関係に粗さを感じるが、チープという程ではない。
アクションシーンはどうも苦手っぽい感じはするが、ドラマはとても丁寧に描かれている。
低予算ながらメイクはしっかりされているし、登場人物も多い。
ロケーションもよく変わるため、低予算でよく見られるような閉塞感もない。
印象的な場面もあり、時折、見入るような美しいシーンがある。
ゾンビものだが、ホラー的な要素は少なくドラマ重視の作品。
全編悲壮感に覆われており、鑑賞後は気持ちが沈む。
繰り返し何度も見るような映画ではないが、独特の魅力を持った印象深い映画だ。
コリン LOVE OF THE DEAD(原題:COLIN/2008年/イギリス)