※ネタバレ注意
主人公はある夜、不思議な惑星に気を取られたことで、交通事故を起こしてしまい、相手の親子を殺してしまう。刑期を終えて出所した主人公は、罪の意識から被害者遺族の男のもとで、身元を隠して清掃員として働くことになる。二人の関係は深まっていくが、同時に罪悪感にも襲われていく。そんな中、あの惑星はもうひとつの地球だということがわかり…
設定はSFだが、内容は心に傷を負った人物たちのヒューマンドラマである。
終始、静かでゆっくりとした雰囲気だが、それが主人公の心理と合っていて不思議と退屈せずに鑑賞できた。
魅力的な登場人物と美しい映像で、映画の世界観に引き込まれる。
ストーリーは、主人公の心理を描写しながらゆっくり丁寧に進行する。
登場人物たちの心理は全て表現されないため、鑑賞者が考え察することが必須である。
特にラストシーンはそうであり、色々な解釈ができそうだ。
自分の解釈だと、二つの地球の主人公は、同じ経験をしてきており、望んだ結果にはなっていないと思う。
理由を説明していくと、ラストでもう一つの地球の主人公が目の前に現れた。
こちらの主人公は、もう一つの地球へ行くチケットを人に譲っているので、向こうの主人公は違う行動をとったということになる。
これは、同期していると思われた二つの地球は、完全に同じではないことの証明になっている。
そのため、もう一つの地球では交通事故は起きていなかったという可能性を考える人もいるみたいだが、それは違う。
なぜなら、主人公がチケットを獲得できたのは、選考で自分が重犯罪者であることをカミングアウトし、それが審査員を感動させたからだ。
つまり、選考に受かる条件として、交通事故を起こしている必要がある。
だから、もう一つの地球でも主人公が交通事故を起こしていると考えるのが自然だ。
事故は起きておらず、主人公が真面目に学業に励んで選考に受かったという可能性もあるが、冒頭の大学生活の描写からはその可能性は低いと思われる。
何より、主人公の前に現れたもう一人の自分の悲しそうな表情と、主人公の困惑した表情が、二人がハッピーな状態ではないことを暗に示しているように思う。
よって、最終的にもう一つの惑星に行くかどうかの判断だけ違いがあったが、二人の経験は同じだと推察できる。
でも、どうしてもう一つの地球の主人公はチケットを譲らなかったのだろうか?
ずっと丁寧に心理描写をしていたのに、ラストはあまりにも雑だった。
こういうふうに、ラストをあやふやにすることで、解釈を観客に委ねるのは好きではない。
最後まできっちり表現しきって、正当な評価を受けて欲しい。
この映画で個人的に印象深いシーンがある。
主人公がお手伝いに行く遺族の男性はそこそこ名のある作曲家だが、事故があって以来、音楽からは遠ざかっていた。
しかし、主人公と交流をする内に再び音楽ができるようになる。
そして、自分の作った曲を聞いてもらいたいと、主人公を音楽ホールに呼びだし演奏を始める。
二人の絆が強まり、かつ、この映画にとって大事なテーマである「前進」というまさにその場面である。
披露されたのは、間の抜けた音色と壮大な宇宙の映像。
不覚にも吹き出してしまった。
上映時間も90分程度と短いため、鑑賞してあれこれ想像してみるのもいいかもしれない。
アナザー・プラネット(原題:Another Earth/2011年/アメリカ)